記念写真を撮りに行くと、当たり前のように真っ白な背景の前に立たされますよね。「なんとなくシンプルだから」だと思っていませんか?実はこれ、写真をきれいに撮るための、れっきとした仕掛けなんです。「なんでいつも白い背景なんだろう」と思ったことはありませんか。理由を知ると、ちょっと見え方が変わります。
白い背景の正体は「ホリゾント」

あの白い壁、実は「ホリゾント」と呼ばれる専用の設備なんです。語源はドイツ語の「Horizont(地平線)」。本来は舞台や映像の世界で、果てしない空や地平線を表現するために使われてきたものなんですよ。日本の映画界では、特撮の巨匠として知られる円谷英二監督が1931年(昭和6年)に使ったのが最初だと言われています。写真館のホリゾントも、この考え方を受け継いでいるんです。
さらに面白いのが、あの白、実はただの白いペンキじゃないんです。専用の塗料が使われていて、蛍光成分をあえて含んでいません。普通の白い塗料だと、フラッシュやライトが当たったときに写真がうっすら青白く写ってしまうことがあるからなんです。それから、床と壁のつなぎ目もよく見ると直角ではなく、緩やかなカーブになっています。これも影の線ができないようにするための工夫なんですよ。
なぜ白じゃないとダメなの?答えは「光」にあった

白い背景が選ばれる一番の理由は、光を効率よく反射させるためなんです。白は光をまんべんなく跳ね返すので、被写体である人の顔や体に柔らかい光が回り込み、余計な影ができにくくなります。証明写真のように「顔がはっきり写っていること」が求められる写真では、この反射がとても大切なんですよ。
「背景をグレーや色付きにしたい」と思う方もいるかもしれません。ただ、証明写真や公的な用途の写真だと、背景色に規定があって白や薄い色しか認められないケースが多いんです。これは、顔の輪郭や表情をはっきり判別できるようにするためなんですね。
明治時代の写真館は、もっと大変だった
今でこそ照明機材でパッと明るくできますが、明治時代の写真はガラス板に感光剤を塗った「湿板・乾板」を使っていて、今よりずっと多くの光量が必要でした。だから当時の写真館は、大きな窓からたっぷり自然光を取り込める造りになっていることが多かったんです。白い背景で光を反射させる工夫は、実はこの時代の「とにかく明るくしたい」という切実な事情からも磨かれてきたのかもしれません。
撮影現場から
私のスタジオでも白背景は現役です。使いどころは大きく2つあります。ひとつは余計な雑味を消して「その人そのもの」を写したいとき。もうひとつは、構図やポーズなど“形の面白さ”を表現したいときです。背景に何もないからこそ、立ち姿や手の動きがデザインとして生きてきます。
背景が白でも、写り方を決めるのは気持ちの向き
ここまで設備の話をしてきましたが、実際に写真の出来を左右するのは、機材よりも撮られる側の気持ちの向きです。うまくいかないと感じるときに共通しているのは、撮られる気持ちがまだこちらを向いていないときで、これは写真写りが良い悪いという話ではありません。緊張するのも、撮られるのが少し苦手だと感じるのも、ごく自然なことです。
白い背景は何もないぶん、その人の表情がそのまま出ます。ごまかしがきかないとも言えますが、逆に言えば、リラックスできさえすればそれだけで良い写真になるということです。撮影前に少し雑談をするのも、この気持ちの向きを整えるための時間だと思っていただければ。
画面で見る写真と、紙で見る写真は別のもの
白背景で撮った写真は、仕上がりを見る環境によって印象がずいぶん変わります。同じデータでも、モニター、スマホ、タブレットでは白の見え方が違いますし、どこでプリントするかによっても出てくるものが変わります。白は基準になる色なので、その差がとくに分かりやすいんです。
16年撮ってきて感じるのは、画面で見る透過光の画像と、プリントを反射光で見る写真とでは、本当に感じるものが違うということです。どちらが優れているという話ではなく、別の見え方をする別のものだと思っています。データで持っていて何度も見返している写真でも、一度紙にしてみると印象が変わることがあります。飾る予定がなくても、気に入った一枚だけ試してみる価値はあると思います。
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まとめ
写真館の白い背景は、ただのシンプルデザインではなく「ホリゾント」という光を操るための専用設備なんです。特殊な塗料や緩やかなカーブも、すべて光をきれいに反射させるための工夫なんですよ。次に記念写真を撮るときは、あの白い壁にもちょっと注目してみてくださいね。


